「先方の返事、待ってたつもりだったんだけど…」——気がつけばカレンダーが3週間ぶん進んでいた。こちらの追加情報待ちと、向こうの返信待ちが、静かにすれ違ったまま放置されていた案件です(正直、こうなる前にどうにかしたかった、というのが本音です)。
営業の現場では、こうした静かな停滞がふと生まれます。1〜5名の会社では、営業も提案もマーケティングも同じ人間が同時に回しているので、なおさらです。人間の記憶力にすべて頼るのは、控えめに言っても無理があります(自分の頭を信じすぎた結果が、冒頭の「3週間後に気づく」事件なんですけど、似たような取りこぼし、社内に1件くらいありませんか?)。
この記事は、毎朝Slackに「今日この案件、動かしておいたほうがいいです」と先回りで話しかけてくれる営業ツールを、月5万円規模のSaaSを使わず2人で自作して運用している話です(金額は実測の社内コストに基づいています — 詳細は本文の費用テーブル参照)。新しいAI SaaSを売り込む記事ではなく、実際に半年使ってみてどう変わったかにだけ集中してまとめました。
非エンジニアの方に向けて、コードはほぼ出しません。「うちでもやれそうか/やる価値があるか」を判断する材料になるよう、運用フェーズで何が起きているかを順番に書いていきます。
こんな方に役立つ記事です
- 営業1〜5名で、SFA・CRMの月額費用を払うほど人数も案件もないが、属人化と抜け漏れに困っている方
- 「Slack botで営業を自動化しました」という話を聞くと、自分にも応用できるか気になるタイプの経営者・営業担当者
- 既存のスプレッドシート運用が回り始めて、もう一段上の仕組みに興味が湧いてきた方
これから始める方は、まず営業管理を始める3ステップから読むほうが順番が自然です。本記事はその先、仕組みが回ったあとの自動化フェーズにあたります。
「呼ばれて動く」から「先回りで動く」への変化
ひと言で表すと、playparkの営業ツールはこの半年で性格が変わりました。
| 以前(呼ばれて動くbot) | 今(先回りで動くエージェント) | |
|---|---|---|
| 動き方 | 人間がSlackに書いたら反応する | 時刻・予定・会話を自分から見に行く |
| きっかけ | 「A社と電話した」と投稿される | 朝9時/商談30分前/チャットの言及 |
| 人間の役割 | 入力する人 | 判断する人 |
| 見落とし | 入力を忘れたら記録されない | システム側が気づいて声をかけてくれる |
入力の手間をゼロに近づけるところまでは、Slackに一行書くだけで済む仕組みで一度ゴールにたどり着きました。その続きを書いた記事はSlackに書くだけで営業日報がDBに残る仕組みにあります。
ただ、半年運用してみるとはっきり気づきます——「入力されない情報には、システムは何もできない」。
電話したことを書き忘れた日。来週からの商談予定3件で頭がいっぱいになって、今週後半の提案フォローを後回しにした週。雑談で「あの会社、最近どう?」と話題に上がった瞬間に、それをタスクに変えそびれた日。
このあたりはどれだけ気合を入れても、結局のところ人間が能動的に動いて初めて記録される世界の話で、忙しい日ほど取りこぼしが増えます(忙しいときほど忘れる、という割と理不尽な性質を人間は持っています)。だから次の段階として、「人間が黙っていてもシステムが動く」レイヤーを足しました。
先回りで話しかけてくる、3つの場面
具体的には3つの場面で、システムが自分から声をかけてくる仕組みを足しています。
1. 朝9時のダイジェスト:「今日この案件、動きが止まっていますよ」
平日の朝9時、Slackの#salesチャンネルに、自分から1通のメッセージが届きます。中身は3パートだけ。
- 期限超過:次の動きの期日を過ぎているのに止まっている案件
- 長期停滞:14日以上、こちらからも先方からも音沙汰がない案件
- 問題なし:上の2つに該当する案件がゼロのとき
朝のコーヒーを淹れている間に、その日の判断対象が3〜5件くらいに絞られた状態で目に入ってくる、というのが運用上のポイントです。スプレッドシートを開いて全件を眺めるのとは、頭の使い方が変わります(全件スクロールは、見ているうちにどれが重要か曖昧になるアレです)。
たとえば「ちょうど今週末に追っかけメールを書こうと思っていたA社」が朝のダイジェストに出てきた瞬間、午前中の予定にスッと差し込めます。「あとでやろう」が育つ前に、視界へ入れてくれる感じです。
案件ゼロの日も「異常なし」と必ず通知が来ます。沈黙=忘れているだと困るので、ちゃんと「今日は問題ありません」と伝えてくれる設計にしてあります(システムが黙っているのが一番怖いので)。
2. 商談の30分前:「次の会議、この企業ですよ。要点はこれです」
GoogleカレンダーにMTG予定が入ると、システムが5分おきにその日の予定を見に行きます。外部ドメインの参加者がいたり、件名に「打合せ」「商談」といった単語が含まれている予定を見つけると、それを商談として扱います。
開始30分前に、Slackに「これからこの企業との商談です。直近の状況はこうです」というブリーフ(前回のメモ・直近の活動・次に話すべき論点)が自動で投稿されます。
カレンダーを開いてZoomリンクをクリックする直前の30分は、たいてい別のタスクに集中していて、商談モードへの頭の切り替えが間に合わないことが多い時間帯です。そこに、軽い「予習」が向こうから差し込まれてくるイメージです。
直近のメモがまだ用意できていない案件の場合は、「ブリーフ未作成」と教えてくれます。「来てほしい情報がない」ことを通知してくれるので、商談直前に慌てて準備する切り替えがしやすくなりました。
3. Slackの巡回:「他のチャネルで顧客名が話題になっていますよ」
社内のSlackには、営業以外にも案件相談・社内メモ・雑談チャンネルがあります。いまいる規模ではほとんどが共有チャンネルですが、営業の話題は営業の場所だけで起きるとは限らない——というのが、運用しているうちにわかってきた事実でした。
たとえば「A社さんから先週もらった資料、どこにあったっけ?」と社内チャットで誰かが書いた瞬間、それは営業上の重要な兆候であることがあります。でも誰も「タスクに変えよう」とは思わない。雑談として流れていきます。
そこで、決めた監視チャンネルでだけ、特定のキーワードや会社名が現れたらDMで通知が来るようにしてあります。
- 監視するのは、営業に関連しそうな共有チャンネル
- 「契約」「提案」「見積」「失注」など、営業上のサインになりそうな単語と、進行中の会社名
- ヒットしたら、本人の通常チャンネルではなくDMでそっと知らせる
雑談を妨げず、見落としだけを救う仕掛けです。全部のチャットを目で追う必要はないということ、それでいて取りこぼしも減るというのが、運用上の安心感につながっています。
半年運用してみてどう変わったか
数字を3つだけ並べます。
| 指標 | Before(呼ばれて動くbot時代) | After(先回りエージェント時代) |
|---|---|---|
| フォロー漏れ | 月2〜3件 | ほぼゼロ |
| 商談前の準備時間 | 1件あたり10〜20分(直前に慌てて見る) | 1件あたり3〜5分(朝9時とT-30分の通知で半分済んでいる) |
| 「あの件どうだっけ?」の回数 | 週に何度か | ほぼゼロ(その瞬間にDMが届くため) |
数字より大きな変化は、たぶん精神的な軽さのほうです。
「自分が見落としていないか不安」という気持ちを、人間ではなくシステムに引き受けてもらえる——これがいちばんの効用でした。1〜5名のチームでよく起きる「全部自分の頭に入れておかなきゃ」という負荷が、確実に下がります(休日に「あの案件どうなってたっけ」と頭の片隅で気になる頻度が、あきらかに減りました)。その代わり、出てきた通知に対して判断する時間だけは確保しなきゃならない、というトレードオフはあります。判断はAIに丸投げできない、という当たり前のところに最後は戻ってくるのです。
なぜSaaSではなく自作を選んだのか
ここはよく質問をいただくので、率直に書きます。
判断軸は3つだけでした。
| 観点 | 自作を選んだ理由 |
|---|---|
| 規模 | 2人で月数万円のCRM/SFA費用は、案件1件ぶんの粗利に近い |
| 運用 fit | 1〜5名チームの「Slackで全部済ませたい」という働き方に既製品が合わなかった |
| 既存ツール活用 | Slack・Googleカレンダー・Gmailは元々使っているので、その上に薄く重ねれば済む |
逆に、SaaSを選ぶべきケースもはっきりしています。
- 営業が10名以上いて、運用ルールを揃える必要がある
- 社内にコードを書ける人が1人もいない
- 数字の集計や全社レポートが、毎月の重要KPIになっている
10名規模になれば、SaaSの月数万円は1人あたり数千円になり、属人化を防ぐ価値のほうが高くなります。今のうちのチームの大きさには合わない、というだけの話です。SaaSが悪い・自作が偉い、という対立構図ではありません。
このあたりの判断軸は2人チームでAI営業エージェントを自作した全体像で詳しくまとめています。
自作のリアルな費用と「向き不向き」
「自作って結局いくらかかるの?」も、聞かれるたびに正直に答えています。
| 項目 | 月額の実額 | 補足 |
|---|---|---|
| Slack | 0円 | フリープランで運用 |
| Googleカレンダー/Gmail | 既存のWorkspace内 | 元々払っている費用の範囲 |
| クラウドDB | 0円 | 無料枠で十分(2人の営業データはとても軽い) |
| AIコーディング環境(Claude Code Maxプラン) | 月約3万円 | 営業以外の社内開発でも常用しているため、この営業ツールへの按分はほぼ0円。ただしゼロから新規契約する場合は別途必要 |
| 開発時間 | — | 立ち上げに延べ60時間ほど。これが最大のコスト |
ランニング費用はほぼゼロですが、初期の開発時間という見えないコストがあります(これを社内で吸収できるか、外部に頼むか。請求書には載らないけれど、確実に存在するコスト)。ここの判断が分かれ目です。
なお、Claude Code のサブスクは「営業のためだけに払うとしたら高い」金額です。playparkでは記事執筆・コードレビュー・社内ツール開発と兼用しているので営業ツールへの按分は実質0円ですが、営業ツール単独でAI環境のコストを正当化するなら、SaaSを契約したほうが早い——という前提で読んでいただけると判断を誤らないと思います。
そして、自作が向いているチームには共通点があります。
- 営業プロセスがある程度言語化されている(「うちの営業ってどうやってるんだっけ?」状態だと、何を自動化すべきかが決められない)
- AIに任せる範囲と、人が判断する範囲が分けられる(全部AI任せにしたいチームには向きません)
- 入力の手間より、見落としの怖さのほうが大きい(少人数チームではほぼ全社これに当てはまりますが、念のため)
逆に「機能は全部欲しい」「導入1週間で完成形が欲しい」というニーズには合いません。最小から始めて、運用しながら育てていくことを許せるチームでないと、自作は途中でしんどくなります。
いきなり自作に飛ばない、現実的な順番
ここまで読んで「うちでもやれそうかも」と思った方には、いきなり自作に飛ばないことをおすすめしたいです。順番はこのくらいでちょうどいい。
| 段階 | やること | 期間の目安 |
|---|---|---|
| 第1段階:見える化 | スプレッドシート1枚に案件をまとめ、次の1手と期日を書く | 1〜3ヶ月 |
| 第2段階:記録の自動化 | Slackに書くだけで日報が残る仕組みを足す | 既存の運用に1〜2週間で重ねる |
| 第3段階:先回り通知 | 朝のダイジェスト・商談前ブリーフ・キーワード巡回を足す | 第2段階が安定してから |
playparkも実際この順番で、約8ヶ月かけて今の状態まで来ました。途中で詰まったら一段戻って整える、という前提で進めています(最初から先回りエージェントを作ろうとすると、たぶん失敗します。乗っかる土台が育っていないので、賢いAIが宙に浮くだけです)。
第1段階の具体的な進め方は1〜5名の会社が今日から動かせる3ステップにまとめてあります。「自分のチームはまだここから」という実感がある方は、まずそこから。
つまずきと、その対処
運用していると、どうしてもつまずきます。代表的なものを3つだけ。
| つまずき | 起きやすいタイミング | 対処 |
|---|---|---|
| 通知が多すぎて読み飛ばすようになる | 運用1ヶ月目 | 朝のダイジェストの閾値を厳しくする(「14日停滞」を「21日停滞」に) |
| 商談ブリーフに必要な情報が用意できていない | カレンダー連動を始めた直後 | 「ブリーフ未作成」通知をちゃんと見る運用に変える(用意し忘れに気づける仕組みなので、責めない) |
| 監視チャンネルでヒットしすぎる | キーワード追加直後 | 単語より会社名でマッチするようにする(汎用語は誤検知が多い) |
つまずきの多くは「運用ルールが厳しすぎる/緩すぎる」のチューニングです。最初から完璧を目指さず、毎週5分のふりかえりで閾値を1つ動かす、くらいの感覚で十分回せます。
まとめ:人がやらなくていい仕事を、システムに引き受けてもらう
長くなりましたが、結論はシンプルです。
- 「呼ばれて動くbot」までは、Slackに一行書くだけの仕組みで作れる
- そこから先の「先回りで話しかけてくるエージェント」は、朝のダイジェスト/商談30分前ブリーフ/チャット巡回の3点セットで現実的に届く範囲にある
- 月5万円のSaaSなしでも、1〜5名の会社が自分たちの働き方に合った営業の自動化を持てる時代になっている
playparkは2人で営業しています。AIに先回りしてもらうことで、人間は判断と対話に集中できるという状態に、半年かけてようやくたどり着きました。完璧ではありませんし、毎月どこかでチューニングしています(「うちの営業はもう完成形」と言い切れる日はたぶん来ない)。それでも、「自分が忘れていないか不安」という負荷が消えただけで、営業に対する向き合い方が変わりました。
「うちでも同じようなことをやりたい」と感じた方は、まずは今の営業の動き方をひとつ言語化するところから始めてみませんか?どこに見落としが多いか、どの場面で頭の切り替えに時間がかかっているか——そこを一緒に整理するところから、無理のない自動化の入口が見えてきます。



