2026年に入って「AI SDR」という言葉を見ない日がなくなりました。Salesforce、HubSpot、国内スタートアップ——次々とAI営業エージェントをリリースして、展示会のブースは「AIが商談を取ります!」の嵐。
ただ、料金表を見ると月5万〜15万。年間で60万〜180万。
2人で回している会社にとって、その金額は「営業1人分の外注費」に近い。しかも大半の機能は50人以上の営業チームを前提に設計されていて、2人チームには明らかにオーバースペック。ダッシュボードの半分が空欄になる未来が見えます。
じゃあ作るか、と。
AI SDRとは何か——そしてなぜ小規模チームこそ必要か
AI SDR(Sales Development Representative)は、人間の営業開発担当がやっていた作業をAIエージェントが代行する仕組みです。具体的には:
- リード調査: 企業情報の収集・分析、課題仮説の生成
- 初回アプローチ: パーソナライズされたメール作成
- フォローアップ: 停滞案件の検知と再アプローチ
- 活動記録: 商談メモの自動記録とパイプライン更新
大企業なら専任のSDRチームがいる。でも少人数チームでは、営業もマーケも開発も同じ人間がやっている(playpark は2人なので、文字通り全部)。
だからこそ、人間がやらなくていい作業をAIに任せる効果が大きい。50人チームの1人ぶんを効率化するより、2人チームの事務作業を消すほうが、体感インパクトは桁違いです。
SaaS vs 自作——判断軸は「チームサイズ」と「技術力」
AI SDRを検討するとき、最初の分岐点は「買うか、作るか」。
| 観点 | SaaS CRM + AI機能 | 自作AI SDR |
|---|---|---|
| 月額コスト | 5万〜15万 | 実質0円(Claude Max は営業AI関係なく契約済み) |
| 初期構築 | アカウント作成で即日 | 2〜3週間の開発 |
| カスタマイズ | 設定画面の範囲内 | 何でもできる(その代わり自分で作る) |
| チーム規模 | 10人以上で真価 | 1〜5人に最適化しやすい |
| 前提スキル | 不要 | TypeScript / SQL が読める |
| データ所有 | ベンダーのクラウド | 自社DB(Neon Postgres) |
SaaSを選ぶべき人: 非エンジニアのチーム、10人以上で標準プロセスを統一したい場合、すぐ使い始めたい場合。
自作を選ぶべき人: エンジニアがチームにいる、3人以下で既存SaaSがフィットしない、自社の営業プロセスに合わせて細かく調整したい場合。
playparkは後者でした。開発できるのは1人だけですが、それで困らない。SaaSのフリープランを3つ試して「微妙にフィットしない」を3回繰り返した末に、「もう自分で作ったほうが早い」という結論に至りました(SaaSの設定画面と格闘した時間、返してほしい)。
全体アーキテクチャ——5つのコンポーネント
自作AI SDRは、5つのClaude Code Skillとインフラで構成されています。
1. analyze——企業分析 + パーソナライズメール
新規リードが来たら、まずこれ。
gBizINFOで法人情報(業種、従業員数、補助金取得履歴)、Webスクレイピングで事業内容、求人情報からIT投資の積極度を判定。これらを統合して課題仮説を3つ生成し、仮説ごとにパーソナライズされたメール案を3パターン出力します。
従来は企業のHPを30分眺めて「この会社は何に困ってそうかな...」と頭をひねっていた作業が、3分で終わる(しかも人間より網羅的。補助金の取得履歴まで見てくれる)。
2. remind——停滞検知 + フォローアップ
パイプライン全体を毎日スキャンして、3種類の「放置」を自動検知。
| 検知パターン | 条件 |
|---|---|
| 期限超過 | 次アクションの期限を過ぎた案件 |
| 長期未接触 | 14日以上コンタクトなし(活動中の案件のみ) |
| ステータス停滞 | 提案中/見積送付済のまま30日以上動いていない |
検知したら停滞レポートを生成し、案件ごとの活動履歴・議事録を参照してフォローアップメール案まで作る。--create-draftsをつければGmail下書きまで一括作成。
少人数チームの営業管理の記事で書いた「フォロー忘れ」問題、これで構造的に潰せています。人間の記憶力に頼らない仕組み。
3. followup——議事録 + お礼メール
Google Meetの面談が終わると、Gemini NotesがメールでAI議事メモを送ってくる。daemon(常駐プロセス)がそれを検知して、Slackに「followupやる?」とボタンつきで通知。
「やる」を押すと:
- 議事メモから構造化された議事録を生成
- 議事録の内容を踏まえたお礼メールのドラフトを作成
- 活動ログをDBに記録
- Slackにドラフトのプレビューを表示
- 「送信」ボタンを押せばGmail APIで送信
面談後の「議事録書いて、お礼メール書いて、パイプライン更新して...」の30分が5分に縮まりました(ボタンを2回押すだけ)。
4. sales-slack——Slack自然言語インターフェース
「A社と電話した。来週提案書送る」
これをSlackの#salesチャンネルに投げるだけで、daemonが意図を分類(log / info / remind / list / status)し、適切なサブコマンドにルーティング。活動ログ作成、パイプライン更新、ダッシュボード反映まで全自動。
構造化されたCLIコマンドを覚える必要なし。自然言語で営業メモを書くだけ。
この仕組みの実装詳細はGit管理の限界からDB+自律エージェントへの進化録で解説しています。
5. dashboard——可視化
パイプライン一覧、企業詳細、アラート(期限超過・未接触の警告)を表示するNext.jsアプリ。Neon Postgresを直接参照するSSR + ISR(5分キャッシュ)構成。
見た目は地味ですが、自分たちに必要な情報だけが並んでいるのが快適。SaaSダッシュボードの「使わない機能の海」を泳ぐストレスがゼロ。
実際のコスト内訳
「自作は安い」と言うからには数字を出します。
| 項目 | 月額 | 備考 |
|---|---|---|
| Claude Max | $0 | 開発・他業務で契約済み。営業AIの有無に関係なく使い続ける |
| Neon Postgres | $0 | Free Tier(0.5 GBストレージ、十分) |
| Vercel Pro | $0 | 商用利用で契約済み。ダッシュボードはその上に乗せるだけ |
| Slack | $0 | Free plan + Socket Mode |
| Gmail API | $0 | Google Workspace既存契約内 |
| gBizINFO API | $0 | 政府オープンAPI |
| 合計 | $0/月 | 既存契約の範囲内で完結 |
Claude Maxは開発業務全般で使っているので、営業AIを動かそうが動かすまいが契約は変わらない。つまり営業AI単体の限界費用はゼロ。SaaS CRM + AI機能だと月5万〜15万なので、差額は年間で60万〜180万(この差額でラーメン3,000杯食べられます。食べませんけど)。
ただし、初期の開発時間というコストはかかっています。概算で延べ60時間。これを時給換算すると安くはない。でも一度作ればランニングコストはゼロだし、自分たちの営業プロセスに完全にフィットしているので、SaaSの設定画面と格闘する時間がゼロになった。トータルで見れば十分ペイしています。
導入効果——数字で振り返る
3ヶ月運用した結果:
| 指標 | Before(手動) | After(AI SDR) | 変化 |
|---|---|---|---|
| 企業調査 | 30分/社 | 3分/社 | 90%削減 |
| フォロー漏れ | 月2〜3件 | 0件 | 100%解消 |
| 議事録 + お礼メール | 30分/回 | 5分/回 | 83%削減 |
| 活動記録 | 手入力5分/件 | Slack投稿10秒 | 97%削減 |
| パイプライン更新 | 忘れがち | 自動 | 手動作業ゼロ |
週あたりの営業事務時間は約5時間から1時間未満に。浮いた4時間で実際の商談や提案書作成に集中できるようになりました。
「作る」を選ぶ前に確認したい3つのこと
自作AI SDRに興味が出てきた方へ、冷静なチェックリスト。
1. チームにコードを書ける人がいるか?
TypeScript / SQL / シェルスクリプトを読み書きできる人が最低1人必要です。「ChatGPTに聞けば何とかなる」レベルだと、運用で詰まったときに打ち手がなくなります。
2. 営業プロセスが固まっているか?
「うちの営業フローってどうなってるんだっけ?」状態で自作すると、作っては壊しの繰り返しになります。最低限「リード → 初回接触 → ヒアリング → 提案 → クロージング」のステップが言語化できているか。
3. SaaSの「ここが合わない」を言語化できるか?
いきなり自作に飛びつかないこと。HubSpot Free、Pipedrive、kintoneあたりを2週間触ってみて、「ここが合わない」が具体的に言えるようになってから自作を検討する。playparkも3つ試して「微妙にフィットしない」を言語化できたから、自作で何を作るべきかが明確になった。不満点が曖昧なまま作り始めると、SaaSの劣化コピーになります。
まとめ
AI SDRブームの波に乗る方法は、月5万のSaaSだけではありません。エンジニアがいる小規模チームなら、Claude Code Skills + Neon Postgres + Slack botで、自分たちの営業プロセスにぴったり合ったAI営業エージェントを実質0円で動かせます(Claude MaxもVercel Proも、営業AIがなくても契約し続けるサービスなので)。
とはいえ、万人向けの選択肢ではない。技術力、営業プロセスの成熟度、初期開発に割ける時間——この3つが揃って初めて「自作」が選択肢に入ります。
SaaSか自作か、正解はチームの状況次第。どちらを選んでも、AIにルーティンワークを任せて、人間は人間にしかできない仕事に集中する。その方向性だけは間違いありません。



