「自動化したほうがいいのはわかってる。けど、何を自動化すればいいのかが、まずわからない」
DXとか業務効率化という言葉は何度も聞くし、ツールの広告も流れてくる。でも自分の会社に当てはめようとすると、最初の一歩で手が止まる。どの作業が一番ムダなのか、そもそも何にどれだけ時間を使っているのか、頭の中ではぼんやりしているのに、いざ口に出そうとすると言葉にならない。
広告は「これで業務がラクになる」と言ってくる。便利そうなのに、自分の会社のどこに当てればいいのかは誰も教えてくれないわけです。ここが最初のつまずきポイントです。
これは判断力の問題ではなくて、可視化されていないものは比較できない、というだけの話です。今やっている作業は全部「当たり前にやっていること」なので、改めて並べてみないと、どれが重くてどれが軽いのか見えてきません。
この記事は、1〜5名規模の会社やお店で、自動化に興味はあるけど「どこから手をつけるか」で止まっている経営者・店主の方に向けて、自動化を検討する手前の「業務の棚卸しと可視化」を、自分の手で進める手順を整理したものです。ツールの導入や外注の前に、まず「何が時間を食っているか」を自分の言葉にするところまでをゴールにしています。専門知識は要りません。むしろ自分の会社の業務を一番知っているのは経営者本人なので、ここは誰よりも強い領域です。
自動化を考える前に詰まる3つの原因
棚卸しをせずにいきなり「何を自動化しよう」と考えると、だいたい次のどれかで止まります。
- 全部が大事に見えて、優先順位がつかない — どの作業も必要だからやっているわけで、並べないと軽重の差が見えない
- 時間の感覚が「体感」のまま — 「あれは結構かかってる気がする」で止まり、実際の数字がないので投資判断にならない(気がする、で何十万円の判断はできません)
- 頭の中だけで完結していて、人に渡せない — 業務が経営者の記憶の中にしかないと、外注しようにもスタッフに任せようにも説明から詰まる
逆に言えば、業務を一度すべて書き出して、頻度と時間の数字を付けるだけで、この3つはほぼ解消します。順番に進めていきます。
棚卸しの全体像
やることは大きく3ステップです。難しい道具は使いません。紙とペン、あるいは表計算ソフトが1つあれば足ります。
| ステップ | やること | かける時間の目安 |
|---|---|---|
| Step 1 | 手作業・紙の業務を一覧に書き出す | 30分〜1時間 |
| Step 2 | 各業務の頻度と1回あたりの時間を記入 | 30分 |
| Step 3 | 「月の合計時間」で並べ替えて候補を絞る | 15分 |
合計で2時間あれば、最初の一周は終わります。完璧を目指さず、まず一周することが大事です。
Step 1: 手作業の業務を全部書き出す
最初のステップは、今やっている作業を思いつく限り書き出すことです。きれいに分類する必要はありません。頭に浮かんだ順に、箇条書きでどんどん出していきます。
書き出すときのコツは、「いつやるか」を思い出しながら洗い出すことです。1日の流れ、1週間の流れ、月末月初、と時間軸でたどると、埋もれている作業が出てきます。
- 毎日やること: レジ締め、売上の記録、予約や問い合わせの確認、メールやチャットの返信
- 毎週やること: シフトの作成、発注、SNSの更新、入出金のチェック
- 毎月やること: 請求書の作成・送付、給与計算、勤怠の集計、経費のまとめ
- 不定期にやること: 新しいスタッフの登録、棚卸し、各種の役所・取引先への提出書類
ここで拾いたいのは、特に 「手で入力している」「紙に書いている」「同じ数字を2回以上どこかに転記している」 作業です。この手の作業は、あとで自動化の候補になりやすいからです。
棚卸しのコツ: 「これは小さいからいいや」と思った作業ほど書く。小さく見えても毎日やっていれば月20回。1回5分でも月100分です。
書き出した時点では、量の多さに少し驚くかもしれません。「自分、こんなにいろいろやってたのか」と。それでいいんです。見えていなかったものが見えてきたという、その状態こそ、今回のゴールに近づいている証拠です。むしろ、すんなり10個で終わったら少し疑ってください。きれいに10個で収まったつもりなのに、現実はその倍埋もれている、というのがよくあるパターンです。
Step 2: 頻度と時間で重みづけする
次に、書き出した各業務に 「頻度」と「1回あたりの時間」 を記入していきます。ここで業務が「体感」から「数字」に変わります。
表にすると一覧で見えるのでおすすめです。列はシンプルに5つで足ります。
| 業務 | 頻度(月の回数) | 1回の時間 | 月の合計時間 | 手入力・転記がある? |
|---|---|---|---|---|
| 売上の記録 | 26回 | 10分 | 約4.3時間 | あり |
| シフト作成 | 4回 | 90分 | 6時間 | あり |
| 請求書の作成 | 1回 | 180分 | 3時間 | あり |
| 予約・問い合わせ確認 | 26回 | 15分 | 約6.5時間 | 一部 |
| SNS更新 | 8回 | 20分 | 約2.7時間 | なし |
ポイントは2つあります。
1つ目は、「月の合計時間」を必ず出すこと。1回あたりは短くても、回数が多ければ合計は大きくなります。逆に1回90分でも月1回なら影響は限定的です。月単位でそろえると、見た目の印象に惑わされず公平に比べられます。
2つ目は、時間は厳密でなくていいこと。ストップウォッチで測る必要はありません。「だいたい10分」「30分くらい」で十分です。1回測ってみるとズレに気づくこともありますが、最初は記憶ベースの概算でかまいません。数字が荒くても、並べた順番はそうそう変わらないからです。
数字が入ると、たとえば「予約・問い合わせの確認に月6.5時間(丸一日近く溶けている計算です)」のように、見過ごしていたコストが急に立ち上がってきます。一つ一つは「ちょっとした作業」のつもりだったのに、合計するとこの量。「そんなに使ってる感覚はなかったのに」という業務、ありませんか? その「感覚と数字のズレ」こそ、棚卸しで一番見つけたいものです。
Step 3: 自動化候補に優先順位を付ける
数字がそろったら、最後は優先順位です。やみくもに「合計時間が長い順」だけで決めるのではなく、2つの軸で見ると判断がぶれません。
- インパクト: その業務にかかっている月の合計時間。長いほど自動化の効果が大きい
- 置き換えやすさ: 手順が決まっていて、毎回ほぼ同じやり方をしている業務ほど、自動化や仕組み化に向く
この2軸で各業務を4つのゾーンに振り分けます。
| 置き換えやすい | 置き換えにくい | |
|---|---|---|
| 時間が長い | 最優先 | 要検討(分解する) |
| 時間が短い | ついでに対応 | 後回し |
おすすめの進め方は、左上の 「時間が長くて、置き換えやすい」業務から手をつけることです。効果が大きく、しかも仕組みに落としやすいので、最初の成功体験を作りやすい。ここで「やってよかった」と思えると、次のステップにも進みやすくなります。
判断に迷いやすいのは右上の「時間は長いが、置き換えにくい」業務です。これは丸ごと自動化しようとせず、作業を分解して、その中の繰り返し部分だけを切り出すと道が見えます。たとえば請求書作成なら、金額の計算や転記は仕組み化できても、内容の最終確認は人が見る、という分け方です。全部か無か、ではなく、部分的に楽にする発想が効きます。
判断基準として、こんな業務は自動化・仕組み化の候補に挙がりやすい、という目安も挙げておきます。
- 同じ数字を、別の場所にもう一度入力している(転記)
- 毎回ほぼ同じ手順で、判断の余地が少ない
- 月の合計時間が長い、または担当者が一人に偏っている
- ミスが起きると影響が大きい(請求や勤怠など)
逆に、毎回判断が必要だったり、顧客とのやりとりそのものだったりする業務は、無理に自動化せず人が担うほうが価値が出ます。「人がやるべきこと」を空けるために、機械でいい部分を機械に渡す、という順番で考えると、優先順位が自然に決まってきます。
棚卸しが終わったら何が変わるか
ここまでの3ステップを終えると、手元には次のものが残ります。
- 自社の業務が一覧になった表
- それぞれにかかっている月の合計時間という「数字」
- 「まずここから手をつける」という優先順位
この3つがあるだけで、その後の選択肢が一気に現実的になります。社内のスタッフに任せるにしても、外部に相談するにしても、「これにこれだけ時間がかかっていて、ここから楽にしたい」と数字で説明できる。これは見積もりや投資判断の土台そのものです。
実際、自動化や外注を検討する次の段階では、この棚卸し表がそのまま材料になります。「中小企業のDXは何から始めるか」を順番で整理した業務効率化3ステップの記事や、棚卸しの先で「自分たちで仕組み化するか、外に頼むか」を分ける外注か内製かの判断軸の記事に進むと、その後の動き方が具体的になります。棚卸しは、これらすべての手前にある共通の起点です。
まとめ
| 状況 | 次の一手 | かかる手間 |
|---|---|---|
| 何が時間を食っているか曖昧 | Step 1〜2で書き出して数字を付ける | 約1.5時間 |
| 候補は見えたが優先順位に迷う | Step 3の2軸で振り分ける | 15分 |
| 優先順位は出たが進め方が不安 | 数字を持って相談相手に話す | — |
「何を自動化すべきかわからない」の正体は、たいてい「まだ全部を並べて見ていない」だけです。難しいツールも専門知識もいらず、紙とペンで2時間あれば一周できます。まず一覧と数字を作る。それだけで、ぼんやりしていた課題が「ここから手をつける」という具体的な一歩に変わります。
playparkは2人の小さな会社で、サイト制作からバックオフィスの業務改善まで同じチームでご相談を受けています。「棚卸しはしてみたけれど、ここから先をどう進めればいいかわからない」という段階でしたら、その表を見ながら一緒に整理するところから始めませんか。
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