「まずは、どの業務を自動化したいか整理してみてください」
業務改善の相談をすると、入り口でよく言われる言葉です。もっともな話に聞こえます。整理さえできれば、見積もりも実装も前に進みます。ところが、棚卸しシートを開いたとたん、手が止まる。
整理ができれば苦労はないのです。その「整理する」ことこそが、一番難しいからです。
なぜ「まとめてください」で手が止まるのか
毎日こなしている業務ほど、言葉になりません。「どの業務を自動化したいですか」と聞かれても、「だいたい全部めんどくさいけど、どれと言われると……」で止まってしまう。
これは能力の問題ではありません。慣れた作業は無意識でこなしているので、改めて手順を説明しようとすると出てこないのです。「やればできるのに、説明はできない」状態。専門的には暗黙知と呼ばれます。
棚卸しのやり方そのものは、別の記事に手順としてまとめました(何を自動化すればいいかわからない人へ — まず業務を棚卸しして可視化する手順)。書き出す観点が決まっていれば、それに沿って埋められます。
ただ、その「書き出す」工程で止まる人が一定数います。白紙のシートを前に、何から書けばいいかわからない。今回はそこを、別のやり方で抜けます。
自分で書き出すのをやめて、AIに質問役を任せる
発想を変えます。要件のシートを自分で埋めるのをやめ、AIに質問役を割り当てる。あとは答えるだけにします。空欄を埋める作業を、対話に置き換えるわけです。
質問されれば、人は答えられます。「今日の午前中、最初にやった作業は何ですか」と聞かれれば、「まず予約表をプリントアウトして……」と口が動く。白紙に向かうより、聞かれて答えるほうが、ずっと楽です。
これは受託側がやっていることの再現
少しだけ、業界の内側の話をします。システム開発を請ける側の仕事の核心は、コードを書くことではありません。顧客が言葉にできていない要件を、ヒアリングで引き出して固めること。ここに力の大半が注がれます。
業務を一番よく知っているのは、いつも発注する側です。受け手はそれを翻訳しているにすぎません。だから良いヒアリングは「何を作りますか」とは聞きません。「今、どこで一番困っていますか」「それは月に何回くらい起きますか」と、現場の手触りから引き出していきます。
この「質問で引き出す」工程は、質問の型さえ手元にあれば、AIでもかなりなぞれます。プロのヒアリングそのものではありません。それでも、白紙の棚卸しシートよりは、ずっと先まで連れて行ってくれます。
手順:AIに要件をインタビューさせる4ステップ
生成AIのチャットに、次の流れで進めてもらいます。お使いのもので構いません。
Step 1. AIに「インタビュアー」の役を与える
最初に役割とルールを渡します。ポイントは「質問は一度に1つだけ」と縛ること。まとめて5問聞かれると、また手が止まってしまうからです。
あなたは業務システムの要件定義を専門とするヒアリング担当です。
私(中小企業の経営者)が抱えている「手作業で大変な業務」を、
これから一緒に整理したいです。
ルール:
- 質問は一度に1つだけ。私が答えやすいよう、具体的に聞いてください
- 専門用語は使わず、日常の言葉で聞いてください
- 私の答えが曖昧なときは、例を挙げて深掘りしてください
- 5〜6回やり取りしたら、出てきた内容を
「誰が・何を・どのくらいの頻度で・どこでつまずいているか」
の形に整理して見せてください
では、最初の質問からお願いします。
これを送ると、AIは「最近『これは手作業で大変だ』と感じた業務を1つ教えてください」といった具合に、1問ずつ聞いてきます。答えるだけでいい。
Step 2. 1業務ずつ、現状を実況する
最初に挙げた業務について、AIが順に深掘りしてきます。「その作業は週に何回ですか」「使っているのはExcelですか、紙ですか」。聞かれたことに、思い出しながら答えていきます。
うまく言えなくても大丈夫です。「毎週月曜の朝にやっている気がする」程度で十分。曖昧なまま投げれば、AIが「30分くらいですか、半日仕事ですか」と選択肢で聞き直してくれます。
Step 3. つまずき・例外・理想を引き出させる
ここが、自力の棚卸しでは抜けやすいところです。次の観点を必ず拾わせます。プロンプトに足しておくと確実です。
深掘りのとき、次の点も忘れず聞いてください:
- どこで一番時間が溶けるか/ミスが起きやすいか
- 「いつもと違う」例外はどれくらいの割合であるか
- データは今どこにあるか(Excel・紙・メール・別システム)
- どうなったら「楽になった」と感じるか
例外パターンは特に大事です。「基本はこうだが、あの取引先だけFAX」「月末だけ二重チェックが入る」。こうした固有の事情が、後で見積もりを大きく動かします。自分では当たり前すぎて書き忘れるものを、質問が引っ張り出してくれます。
Step 4. 要件メモとして出力させる
5〜6往復したら、構造化を頼みます。
ここまでの内容を、外部の相談相手にそのまま渡せる要件メモにまとめてください。
業務ごとに、次の項目で表にしてください:
- 業務名
- 誰がやっているか
- 頻度と1回あたりの所要時間
- 現状のやり方(使っているツール)
- つまずいている点
- 理想の状態
最後に、困っている度 × 頻度で優先順位を付けてください。
出てくるのは、自力では一日かかっても書けなかったであろう、整った一覧です。これが相談と発注の土台になります。
AIに任せきりにしない
便利ですが、過信は禁物です。生成AIは一般論で空欄を埋めにきます。「中小企業ならこうですよね」と、それらしいのに自社には当てはまらない記述を混ぜることがあります。
最終チェックは人間の仕事です。出てきたメモを読み返し、次の3つをやります。
- 実際と違うところを直す
- AIが拾えなかった現場の事情を足す
- 「これは別に困っていない」項目を削る
この一手間で、はじめて使える要件メモになります。AIは叩き台を高速で作る相棒であって、決裁者ではありません。
要件が固まると、その先が軽くなる
このメモが1枚あるだけで、後の工程が変わります。
何を相談すればいいか言葉にできていれば、相談の場は「困りごとの翻訳」ではなく「解決策の検討」から始められます(業務自動化を相談する前に — 話が早く・安く・正確に進む5つの準備)。要件として何を揃えるべきかの全体像は、業務システムを外注する前に — 経営者が用意する要件のまとめ方 にまとめてあります。
要件がはっきりしていれば、発注先を見極める目も効きます。曖昧なまま投げると相手の言い値になりがちですが、こちらに軸があれば対等に比べられます(業務自動化を外注するなら誰に頼む? — 失敗しない発注先の選び方と判断材料)。
まとめ
- 「何を自動化したいか整理して」でつまずくのは、慣れた業務ほど言葉にしづらいから。能力の問題ではありません
- 自分でシートを埋めず、AIに質問役を任せて、答えるだけにします
- 役割を与え、1問ずつ、つまずき・例外・理想まで引き出させ、最後に要件メモへ構造化します
- AIの出力は叩き台です。現場の固有事情は人間が補正します
- 固まった要件メモが、相談・発注・発注先選びすべての土台になります
要件は、きれいにまとめてから相談するものだと思われがちです。けれど本来、それを引き出して固めること自体が、相談相手の仕事の一部です。AIで下ごしらえしておけば、その対話はもっと早く、深いところから始められます。
まずは一緒に、引き出すところから
「AIに聞いてみたが、これで合っているか不安」「そもそも何を自動化すべきかで迷っている」。その状態で構いません。要件を言葉にする手前で止まっている段階こそ、相談する価値があります。
playpark では、業務の棚卸しと要件の言語化から、小さく作って早く効かせる実装まで、一貫してお手伝いしています。AIで作ったメモを持ち込んでいただければ、その続きを一緒に詰められます。まずはお気軽にご相談ください。



