「playparkさん、Claude を毎日使ってるって聞いたんですけど、うちでも入れた方がいいですか?」
ある日、お客さんの一社(6名規模の不動産会社)からこう聞かれました。うちが Claude Code を業務でフル活用しているのを知ってのご相談だったので、「はい、ぜひ Claude を」と返すのが流れとしては自然です。実際そう答えかけました。
でも、そのお客さんの状況を整理してみて、最終的に勧めたのは Gemini でした。「自分が使っている道具をそのまま勧める」のは違うな、と判断した話を、後から「あれ、なんで Claude じゃなくて?」と聞かれたとき用にも書いておきます。
立場の確認: うちは playpark という2名の会社で、業務の多くがコードを書くか、お客さんの業務改善設計をするかです。日常的に Claude Code(Pro/Max)と Codex CLI を併用しています。今回の話は「自社で使うもの」と「お客さんに勧めるもの」を分けて考えた話で、Gemini が万能だから乗り換えました、という記事ではありません。
相談相手の前提
- 業種: 不動産仲介
- 規模: 6名(経営者含む)
- 既存 SaaS: Google Workspace を Business Standard 以上で全員ぶん契約済み
- AI 利用状況: 全員、メールの返信文や下書きで AI を触ったことはある。ただし「業務改善にどう活かすか」のイメージが組織として共有されていない
- 困りごと: 物件確認や手続きの「やり方」が特定の人の頭にしか入っていない(属人化)
この前提だと、Claude・ChatGPT・Gemini のどれを入れても、最初の3ヶ月でやれることはほぼ同じです。要約・文章のリライト・議事録の整形・問い合わせ返信の下書き、このあたりはどのモデルでもこなせます。
問題は「最初の3ヶ月でやれることがほぼ同じ」だからこそ、選定基準は モデルの賢さではなく、組織が継続的に使い続けられるかどうか に寄ります。ここから判断軸が3つに割れました。
判断軸1: 接続設定の摩擦をどれだけゼロに寄せられるか
業務で AI を使ううえで一番つまづくのは、実はモデルの賢さではなく 「自分の作業中のファイルに、AI を辿り着かせる」までの段差 です。
このお客さんの場合、業務データはほぼ Google Docs / Google Sheets / Gmail / Google Drive に入っています。Workspace で完結している環境です。
- Gemini: 同じ Google アカウントで Docs / Sheets / Gmail / Drive にネイティブ接続済み。サイドパネルから「このメールに返信文を起こして」「このスプレッドシートからこのお客さんの履歴を抜いて」がそのまま動く
- Claude: Connectors(Google Drive、Gmail、Calendar など)を Pro / Max 以上で接続できますが、6名分の個別接続設定とアクセス権限の付与をユーザー側で行う必要がある
- ChatGPT: ChatGPT Plus + Connectors または Enterprise でほぼ同等の接続ができますが、こちらも個別設定が必要
「個別設定が必要」というのは、AI リテラシーが高い組織ではなんでもないコストです。うちの2名の会社なら、コネクタ周りで詰まる心配はほぼありません。
ただ、業務改善への AI 活用イメージがまだ組織として揃っていない段階で個別の接続設定をやらせると、「接続できない」「権限がない」「自分のファイルが出てこない」で問い合わせが滞留 し、結果的に1ヶ月後には誰も使わなくなります。これは過去に何度か見た光景です。
Gemini を Workspace の利用者全員に配ると、この導入時の摩擦が物理的にゼロになります。「Docs を開いて右側のアイコンをクリック」だけで AI に話しかけられる状態が、契約変更直後から完成しています。
判断軸2: いま追加コストを払う意味があるか
これは経営者にとって地味に効きます。
最初の3ヶ月でやれることが Claude / ChatGPT / Gemini でほぼ変わらない以上、この段階で Claude Pro や ChatGPT Plus を一人ずつ追加契約することは、純粋に月額コストが乗るだけ です。Gemini なら Google Workspace の同じ請求書の中で完結します。
加えて、AI を一人ずつ個人契約で入れていくと、運用負荷もじわじわ効いてきます。
- 退職時にアクセスを止める手順が、Google Workspace 管理画面とは別になる
- 領収書を1名ずつ集めて経費精算する手間が増える
- 誰がどのプランに入っているかの一覧が経理に見えない
Google Workspace の有料プラン内で Gemini が使える状態にしておけば、これらは 既存の Workspace 管理画面とまったく同じ動線 に乗ります。退職者のアカウントを停止すれば AI 側のアクセスも自動で止まるし、請求は1本にまとまります。
6名規模の会社で「経理担当が経営者本人」というケースは珍しくありません。請求書が増えること自体が運用負荷なので、ここを増やさない選択は地味に効きます。
そして大事なのが、AI ツールは後から積み増せる ことです。会社全体が Gemini で AI の使い方に一度慣れて、「これは Gemini では足りないから Claude を使いたい」「コーディング支援が要るから Claude Code も使いたい」という具体的な要件が出てきたタイミングで、必要な人にだけ追加契約すれば間に合います。要件がまだ見えていない段階で全員に Claude Pro を配るのは、過剰投資になりがちです。
判断軸3: 全社員に同じ道具を配れるか
Claude Code や Codex CLI を業務でフル活用しているうちのような会社では、「ターミナルを開いて CLI を叩く」「設定ファイルを書く」が前提です。これは2人だから成立しています。
不動産仲介の現場では、ターミナルを毎日開く人は存在しません。「全社員に AI を配る」となったとき、配れる粒度は ブラウザでログインして使える Web アプリ までです。
Gemini は Workspace の各アプリ内に最初から組み込まれているので、配布作業すら不要です。契約変更だけで全員に同時配布が完了 します。Claude / ChatGPT の Web UI も全社員に配ることは技術的に可能ですが、Workspace との接続を一人ずつ案内するコストと、その後の問い合わせ対応のコストがかかります。
じゃあ、なぜ自社では Claude Code を使っているのか
冒頭の前提のとおり、これは「立場が違うので最適解も違う」という、ただそれだけの話です。
- うちは2名。コードを書く時間が業務の大半。Claude Code の Max プラン月額相当が、ほぼ全力で意味を持つ
- お客さんは6名。コードを書くのはゼロ。Google Docs と Gmail と Sheets で完結している
- うちの2名は、CLI や設定ファイルや MCP コネクタを自前で組むことに抵抗がない
- お客さんの6名は、AI に触ったことはあっても、業務改善にどう活かすかのイメージはまだ揃っていない
「自分が使っているもの」と「相手に勧めるもの」をそろえに行くと、相手の組織には重すぎる道具を渡してしまい、結局誰も使わない、という事故が起きます。AI ツール選定では、モデル単体の賢さではなく、その組織が継続して使える摩擦の少なさ のほうが、最初の半年は支配的だというのが、ここ最近の実感です。
Gemini で最初に作ったもの
このお客さんの困りごとの本丸は「属人化」でした。Gemini を入れただけでは属人化は解けないので、続けて 質問に答えるだけでマニュアルが育っていく仕組み を Gem 機能で作る話をしました。
具体的な作り方は、続編として別記事にまとめる予定です。
まとめ
- AI ツール選定で組織にとって支配的なのは「モデルの賢さ」ではなく「継続して使える摩擦の少なさ」
- Google Workspace を全社で契約している中小企業なら、追加の接続設定なしで使える Gemini が摩擦最小
- 自社が使っている道具と、お客さんに勧める道具をそろえに行くと、相手の組織には重すぎることがある
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