「この処理、◯◯さんが休むと誰も分からないんですよね」
社内のある業務を指して、思わずそう口にしたことはありませんか?請求書の締め作業、特定の取引先とのやり取り、毎月のあの集計——本人にとっては手慣れた作業でも、その人が一日休むだけで止まってしまう業務が、どの会社にも一つや二つあります(そして大抵、その「一つや二つ」が一番大事な作業だったりします)。
これは担当者の能力の問題ではありません。「あの人しか分からない」状態、つまり属人化が放置されていること自体が、経営リスクです。退職、産休、急な病欠。きっかけは選べません。本記事は、従業員5〜50名ほどの中小企業・店舗で「人が抜けたら業務が止まりそうで怖い」という不安を抱える経営者・管理部門の方に向けて、その不安を「見える化 → 引き継ぎの仕組み化 → ツール化」の順で減らしていく手順を整理したものです。専門知識は要りません。
playparkは2人の小さな会社で、サイト制作からバックオフィスの業務改善まで同じチームでご相談を受けています。人数が少ない会社ほど一人の守備範囲が広く、属人化が起きやすいことは身をもって分かっているつもりです。
思い当たる業務はありますか
- 特定の業務について「やり方を説明できる人」が社内に一人しかいない
- その業務の手順がどこにも書かれておらず、本人の頭の中にしかない
- 担当者が休むと、その日のうちに処理できず後ろ倒しになる作業がある
一つでも当てはまるなら、その業務は「人に紐づいている」状態です。逆に言えば、紐づきを業務側・データ側にほどいていけば、誰が担当しても同じように回せるようになります。
なぜ「人」に仕事が貼りつくのか
属人化は怠慢で起きるのではなく、むしろ真面目に仕事をした結果として積み上がります。
担当者は日々、例外処理やちょっとした判断を自分の中で蓄積していきます。「この取引先だけは締めが3日早い」「このエラーが出たら、いったん前月のファイルを開いて確認する」。こうした暗黙のルールは、本人にとっては当たり前すぎて、わざわざ書き留める動機が生まれません(つまり、サボったわけではなく、むしろ仕事ができる人ほどこの状態に陥ります)。マニュアル化する15分があれば目の前の山を片付けたい、というのが本音なのですが、その積み重ねが後から効いてきます。
つまり属人化は、放っておくと勝手に進む方向のリスクです。だからこそ、止めるには意識的な手順が要ります。
Step 1:リスクを見える化する
最初にやることは、新しいツールの導入でも、マニュアル作成でもありません。どの業務が、どれくらい人に依存しているかを一覧にすることです。ここを飛ばすと「とりあえずマニュアルを作ろう」と号令だけがかかり、現場が疲弊して終わります。
業務を棚卸しして、次の3つの軸で見ていきます。
| 見る軸 | 質問 | 危険信号 |
|---|---|---|
| 担当の集中度 | この業務を回せる人は何人いるか | 1人だけ |
| 手順の所在 | やり方は文書化されているか | 本人の頭の中だけ |
| 止まったときの影響 | 1週間止まると何が困るか | 入金・出荷・給与に直結 |
3つすべてが危険信号の業務——「1人しか回せず、手順は頭の中だけ、止まると入金が遅れる」——が、最優先で手を打つべき箇所です(言い換えれば、その人が連休を取った瞬間に会社が静かにざわつく業務です)。逆に「2人いて、手順も書いてある」業務は、いったん後回しで構いません。すべてを同時に直そうとしないことが、続けるコツです。
ここで大事なのは、担当者本人を犯人扱いしないことです。一覧づくりは「あなたが抜けたら困る」というメッセージにもなりかねないので、「会社として業務を守るための棚卸し」だと最初に伝えておくと、本人の協力も得やすくなります。
Step 2:引き継ぎを仕組みにする
優先順位がついたら、危険信号の業務から手順を外に出していきます。ポイントは、完璧なマニュアルを目指さないことです。
引き継ぎが失敗する典型は、「全業務の完全マニュアルを作る」という壮大な計画を立てて、最初の数本で力尽きるパターンです。立派な目次まではできるのに、実際は中身が3章で止まったまま放置される——よくある光景です。最初に必要なのは、本人がいなくても最低限の処理が止まらない状態であって、新人が一人前になれる教材ではありません。
最低限おさえるのは、次の3つです。
- 作業の手順そのもの — 何を、どの順番で、どこを開いて行うか。画面の操作はキャプチャを貼れば十分です
- 例外と判断の理由 — 「この場合はこうする」という暗黙のルール。実はここが一番、本人の頭にしかない部分です
- 連絡先と権限 — 誰に確認すればよいか、どのシステムにログインが必要か
書く形式は問いません。共有のドキュメントでも、短い手順動画でも構いません。重要なのは、本人以外がアクセスできる場所に置くことです。本人のパソコンのデスクトップにあるファイルは、文書化したうちに入りません(その人が休んだ日、誰もそのPCを開けないのですから)。
手順が散らばって探せないと、せっかく書いても使われなくなります。社内に蓄積した手順や規程をすぐ引ける状態にしておく工夫については、社内に埋もれた情報を、AIが代わりに探してくれる仕組みでも触れています。
Step 3:そもそも人手を減らす(ツール化)
手順を文書化しても、毎回の作業を人がやっている限り、その人の手が空いていないと業務は進みません。引き継ぎの先にあるのが、作業自体を仕組みに肩代わりさせる段階です。
たとえば、毎月決まったデータを別のシステムへ転記している作業。手順を書けば誰でもできるようにはなりますが、「誰かがやらないと進まない」点は変わりません。その「誰か」が、いつまで今の人のままでいてくれるでしょうか。ここをシステム連携——つまりシステム同士を自動でつなぐ仕組み——で自動化できれば、担当が休んでも処理は走り続け、転記ミスも起きなくなります。手作業の集計や転記は、自動化によって作業時間を大きく圧縮できる領域です(月に何時間も奪っていた単純作業が、気づけば誰の予定表にも載らなくなります)。
ただし、いきなり全部を自動化しようとする必要はありません。Step 1の一覧で「危険信号が3つそろった、影響の大きい業務」から一つだけ選び、効果を数字で確かめてから次へ進むのが現実的です。この「小さく始めて効果を見てから広げる」進め方は、中小企業のDX、何から始める?でも軸にしている考え方です。
ツール化が向くのは、次のような業務です。
| 向いている | 後回しでよい |
|---|---|
| 毎月・毎日くり返す定型作業 | 月に一度あるかどうかの不定期作業 |
| 転記・集計・突合など機械的な処理 | 人の判断が大半を占める交渉ごと |
| ミスが入金や出荷に直結する作業 | 間違っても影響が小さい作業 |
3つのStepの位置づけ
順番が大切です。見える化を飛ばすと努力の方向がぶれ、引き継ぎを飛ばしてツール化に走ると「自動化したけど中身を誰も分からない」という新しい属人化を生みます。一段ずつ進めることが、結局は近道になります。
まとめ
属人化は、誰かのサボりではなく、真面目に働いた結果としてたまっていくものです。だからこそ、放置すれば静かに進み、人が抜けた瞬間に表面化します。
| Step | やること | ねらい |
|---|---|---|
| 1. 見える化 | 業務を棚卸しし、担当集中度・手順の所在・止まったときの影響で危険度を判定 | どこから手を打つかを決める |
| 2. 引き継ぎの仕組み化 | 危険な業務から、手順・例外判断・連絡先を本人以外が見られる場所に置く | 人が休んでも処理が止まらない状態 |
| 3. ツール化 | くり返しの定型作業をシステム連携で肩代わり | 作業そのものを減らし、ミスも防ぐ |
すべてを一度に変える必要はありません。まずは「この人が辞めたら一番困る」という業務を一つ思い浮かべるところからで十分です(たぶん、もう顔が浮かんでいるのではないでしょうか)。
どの業務が人に依存しているのか、どこから手をつければいいのか——その棚卸しから一緒に整理することもできます。Web制作だけでなくバックオフィスの業務改善まで同じチームでご相談いただけますので、気になる業務があれば気軽に相談するところから始めてみてください。



